3. 1人目の、スペシャル・ドクター

2022年1月19日

3. 1人目の、スペシャル・ドクター


通常、整形外科へ行くと「使いすぎて痛みが出たのなら、安静に」と言われますが、A先生は、安静にしていたら仕事にならない演奏家のことを理解し、「弾きながら治す」ことを目指しておられます。

徹底的に消炎鎮痛剤で炎症を抑え、必要とあらばステロイド注射を打つ。口頭でのストレッチ指導もあり。

初診察の日、「ここと、ここが痛いです…」と言うと、早速2本のステロイド注射を打つことになりました。実は、初日から注射を打たれるとは思っていなかったので(治しに行っているのに、おかしな話ですが)心の準備がなく、少しドキドキしてしまいましたが、注射は効きました。

では、それで一件落着だったのか?というと、違うのです。

その次にどこが痛くなったか・・・など、細かい事はもう覚えていないのですが、要するに「ここが良くなったら、次はここ…」と、無限のループに突入してしまいました。

そのループから離脱するためには、注射を打つ以外にも何かが必要だ・・・ということは何となく気づきましたが、どうしたらよいか分からず、結局A先生の外来の常連となっていきました。

医師に診てもらうことは大事ですし、音楽家の手を無数に診ている先生に頼ることは必要だったと思いますが、そこで100%元に戻ると思ってはいけなかったと、今となっては思います。

でも、医者に行っているから大丈夫、いつか元通りになるだろう・・・と思ってしまうのも、仕方のないことではありませんか。

注射をすれば、問題の箇所は一時的に痛くなくなります。でも、痛みが軽減して一時的に「よくなった」隣で、違う部位が痛みを出してくる・・・。その痛みを気にしながら弾くので、また別の部位が痛くなったり、最初の痛みがぶり返したり。

一時的に1つを解決しても、全部は解決しなかったのです。

今になれば冷静に状況を分析することが出来ますが、その当時は、本当にどうすればよいのか分からず、だましだまし注射を打ちながら、悶々と悩んでいました。

・・・

さて、11月のリサイタルまでに治ってくれるのか、とても不安な時を過ごす間、これ以上痛くなるのが不安だったので、用心して楽器を弾かない日が増えました。

リサイタルの曲だけは練習するけれど、最小限にとどめる。

それで、リサイタル直前まではそれ程大きな問題はなかったのですが、本番1週間程前、リハーサル後に急に腕が怠くなり、指も動かなくなってしまいました。

その後は殆ど弾けずに当日を迎え、舞台リハーサルでもなるべく弾かずに本番となりました。でも本番は、集中力とアドレナリンでなんとか乗り切ることが出来ました。

共演ピアニストさんにもとても心配をかけてしまいましたが、最高のサポートをしていただき、今でも感謝していいます。

​さて、この(↑)リサイタルの状況は、その年最初の「兆候」の時と全く同じではありませんか。

ここまでで、お分かりになるかもしれませんが、

「これ以上痛くなったら嫌だから、なるべく弾かないでおく」

→「リハーサルや本番で急に本気で弾く」

→これは、スポーツで言えば練習もトレーニングも準備運動をしないで全力疾走ということになります。

良い訳がないのですが、それがこの後も習慣になっていきました。

いざと言う時には注射で痛みを消して弾き、それ以外の時は、痛かったらなるべく休ませる。

いえ、実を言うと、注射をしても、どうせ別の部位がすぐに気になってくるので、常にどこかの痛みを気にしながら弾かなければならず、そうなると、徐々に弾き方も変わっていきました。

そもそも、ステロイド注射は、体に良い訳がありません。

A先生も、希望すればいつでも注射を打ってくれるという訳ではありませんでしたし、基本は消炎鎮痛剤の処方なのですが、必要な時には確実に注射をしてもらえるように「来週本番が…」というマジックワードを使うようになりました(嘘をついた訳ではなくて、本当に本番があったのですが)。

・・・

さて、A先生の所に行き始めてから2年ほど経った頃のことです。私にA先生のことを教えてくれた友人が、セカンドオピニオンを求めて、別の手の外科の名医B先生のもとを訪れたと教えてくれました。

その話を聞き、私も、違う先生の意見を聞いてみようかな、と、初めてB先生のところへ行ってみました。「このままでは良くない」という思いを常に持っていたので、違う動きをしてみよう、と思ったのです。

2015年夏の終わりのことです。