10. 2020年

2022年1月19日
10. 2020年
2020年の初め。
これからどんどんリハビリを進めて、万全の態勢作りをしようと思っていました。時間は充分にある、と。
ラボでは、弾く動作や姿勢を細かく見てもらい、自分でも、考えずにやっていた演奏動作を分析してみるなど、体の各部位の動かし方や役目について、考える日々。
しかし、順調に行くかと思っていた手指のリハビリは、何度となく中断されてしまうことになります。
1月、左人差し指腫れ腫れ事件。
2月、右親指腫れ腫れ事件。
3月、お皿事件(左前腕を痛める)。
5月、右腕事件。
理由がきちんと分かっている事件もあれば、確かな理由が結局分からないのに、腫れてしまったり、痛くて動かせない程になってしまった事件もあります。
この頃世の中は、新型コロナウィルスの感染拡大により、ものすごいスピードで、不安が漂っていきました。世界中の音楽家達が活動の場を失い、一気に途方に暮れました。
私も、決まっていたコンサートが延期や中止になりました。(手指の状態を考えると、延期にならなければどうなっていたか、そちらの方が恐ろしいのですが)
最初に「延期」が決定したのは2月半ばで、まだその頃は、「世の中がストップしなければならないこの期間に、私はリハビリをして元通りに弾けるようになるし、さらに強くなって復帰に備えられる」と前向きに思っていました。
しかし、いつまで経っても痛み無くならないどころか、3月~5月は、完全に楽器に触ることも出来ないくらいの状況になり、
その間、平行して行う予定だった体幹のリハビリやトレーニングも、始めることが出来ず、コロナと同時に、完全なる停滞期間となってしまったのです。
これから回復しようとしていた時に、逆に弾けなくなるなんて、予想もしませんでした。
コロナのせいのストレスもありましたが、逆に、コロナ禍が過ぎた時に自分がどの程度回復出来ているのか、もしかして回復出来ていないのかも?と考えることが、不安で益々苦しくなるような時期でした。
そんな中でも、私はつくづく幸運なのだと思える出来事も、たくさんありました。
幸い、演奏がなくなっても教える仕事は続きます。生徒さんなどとの新たな出会いもあり、リモート環境での新たな挑戦も出来ました。全てが止まったわけではなかったのです。
が、そうは言っても、一向に弾けるようにならない状況に、2019年のリサイタル前と同じくらい、また、毎日泣く日々となりました。
やっと少し事態が動き出したのは6月中旬。5分くらいずつ、リハビリとして弾くことを始められたのです。
ちょうど良いタイミングで、短い本番のお仕事もいただきました。
目標があると頑張れるものです。
コロナ禍に音楽を聴きたいと思っていただけることも、励みになりました。
7月、5~10分。8月9月、15~20分。10月11月、30分前後。12月、40分前後。
これが、「バイオリンを弾く」というリハビリで、一日に弾くことが出来たおおよその時間です。
演奏家は、通常のホールでのコンサートの場合、賞味1時間半前後の演奏をします。
しかし、それは本番の時間のみです。
コンサート当日は、その前に最終リハーサルがあり、全プログラムを通して弾くことも多いです。
それに加え、当日の前に何日間かのリハーサルが行われます。一回平均3~4時間でしょうか。例えばリハーサルが3日間行われ、当日を迎える場合、4日間、平均3~4時間、弾き続ける体力および筋力が最低限必要です。
それを目標にやっていて、2020年12月の時点で、一日たったの40分。
学生時代は、少なくとも毎日4時間は普通に練習していたのに、です。
このギャップをどうやって埋めていくか。
2021年の11月には、すでに次のリサイタルを予定して、会場を押さえてあります。
2019年の時よりは良い状態になれるだろうけれど、どのくらい、自分の思い通りの準備が出来るのか。
期待や予想ほどには、よくならないのではないか・・・。
日が経つごとに、不安が膨らんでいった2020年でした。