エッセイ

 

 

 

私は、7年間イギリスに留学していました。
19歳から26歳というとても柔軟な時期に外国に暮らしたということは、私にとってとても大事な意味があり、このイギリス生活抜きにしては、今の私はあり得ません。

「どうしてイギリスにしたの?」
「7年間もいて、よく帰って来たね。向こうに住み着きたくなかった?」
と、よく言われます。

留学したきっかけは、全くの偶然でした。
高校から音楽学校で学んでいた私は、「将来は留学したい」と思っていて、高校2年の時から、ヨーロッパに目を向けてはいました。周りには、高校卒業と同時に留学する同級生もたくさんいました。でも私は、なかなか「この先生に習いたい」という決め手が見付からなかったので、そのまま桐朋学園大学に進学しました。すると、その春の5月だったか6月だったか・・・父がロンドンに転勤することになったのです。日本の会社では、「転勤」と言われたら「即」ですから、それから1ヶ月以内に、父はイギリス住まいとなりました。
私はというと、大学に入ったばかりで、「卒業したら留学しよう。それまでに留学先を探そう」という考えに落ち着いていたので、全く父親について行く気はありませんでした。
しかし周りの大人の殆ど全員が「一緒に行くんでしょ?苦労しないでイギリスに(ヨーロッパに)留学出来るなんて。いいわねぇ、良かったわねぇ!」・・・と。こんな風に言わなかった人は、ほぼ、いませんでした。

確かに。
いいチャンスです。
でも私は、常々「留学したい」と思っていたのはドイツだったので、「イギリスに住む」ということには全く魅力を感じませんでした。
せっかく一生懸命習っていたドイツ語が役に立たない場所に行くなんて!とも思ったし、桐朋での大学生活は楽しかったので、折角のチャンスと言われても、日本を離れる気はさらさら無かったのです。

でも、その時の状況で「行きたくない」と言うには、その理由がなかったのです。

結局は周りの雰囲気に乗り、渡英することになりました。

正直、本当に本当に行きたくありませんでした。
私はもともと人見知りな性格なので、とにかく不安でした。ドイツだったら喜んで行ったと思いますが、当時の私にとっては、何の知識もイメージも魅力も無いイギリスですから、身を引きちぎられるような思いで飛行機に乗りました。寝ても覚めても「嫌になったらすぐに帰国しよう」と思い続けながら。

それが結局7年もイギリスに住むことになるなんて、一番予想していなかったのは私自身です。

今振り返ると、私はかけがえのない経験をしたと思うし、あの時嫌々ながらイギリスに行って、本当によかった・・・!と思います。
「日本に残りたい」と主張しなくて(する勇気がなくて)、結局得をしたと思います。

流れに身を任せてみるのも、時にはよいみたいです。

しかし、「よかった」と思ったのはもう少し後のこと。

不安だらけの私は、桐朋での大学2年生の途中で休学届を出し、ロンドンの、ギルドホール音楽院の学士課程に、1年生から入学し直しました。
そして、ロンドン市内中心部での、家族3人の生活が始まったのでした。